1.「手数料を安くしたい」という心理を突く罠
メルカリやラクマ、ヤフオク!といったフリマアプリ・オークションサイトの普及により、私たちは個人間で手軽に物を売り買いできるようになりました。しかし、これらのプラットフォームには、販売手数料(売上の5〜10%程度)が発生します。詐欺師はこの「手数料を節約したい」あるいは「少しでも安く買いたい」という利用者の心理を巧みに悪用します。
近年、被害が急増しているのが、プラットフォームの決済システムを通さず、決済アプリ(PayPay、LINE Pay、楽天ペイなど)の「個人間送金機能」を使って直接代金を支払わせる手口です。断言しますが、フリマアプリやSNSでの取引において、外部決済を誘導されたら、それは100%詐欺です。
2.なぜ「個人間送金」は危険なのか?:エスクロー決済の不在
フリマアプリが安全なのは、「エスクロー決済(仲介決済)」という仕組みがあるからです。これは、購入者が支払った代金を一旦運営会社が預かり、商品が届いて受取評価をした後にはじめて出品者に送金されるシステムです。これがある限り、「お金を払ったのに商品が届かない」という被害は防げます。
一方で、PayPayなどの個人間送金は、以下の特徴があります。
(1) 「即時」かつ「取消不能」
送金ボタンを押した瞬間に、お金は相手の残高に移動します。銀行振込のような「組戻し」は原則としてできず、一度送ったお金を取り戻すことはシステム上、極めて困難です。
(2) 購入者保護制度の対象外
決済アプリの運営会社は、これらの送金機能を「家族や友人、信頼できる知人間でのやり取り」を想定して提供しています。見ず知らずの他人との売買に利用してトラブルになっても、「利用規約違反」とみなされ、補償を受けることができません。
(3) 匿名性の壁
詐欺師は、SNSやアプリのアカウントを使い捨てにします。お金を受け取った瞬間にアカウントを削除し、ブロックしてしまえば、被害者が相手を追いかける手段は事実上なくなります。
3.【実例】限定チケットを求めたファンの悲劇
人気アーティストのコンサートチケットを求めていた大学生のIさんの事例です。
詐欺のプロセス:
SNSでの募集: 公式サイトで落選したIさんは、X(旧Twitter)で「急用で行けなくなったので、定価で譲ります」という投稿を見つけ、DMを送りました。
信頼の醸成: 相手は「転売目的ではないので、ファンの方に譲りたい」と親切に振る舞い、チケットの当選画面のスクリーンショット(※実は他人の画像の転用)を送ってきました。
外部決済への誘導: 相手は「フリマアプリを通すと手数料がかかって高くなってしまう。PayPayの送金なら手数料がかからないから、その分安くできる」と提案。さらに「先に半分送金してくれたら、チケットの情報を送る。残りは確認後でいい」と、一見誠実そうな条件を提示しました。
送金後の豹変: Iさんが半分の3万円をPayPayで送金した直後、相手からの返信は途絶え、数分後にはアカウントが削除されていました。
教訓: 詐欺師は「善意の第三者」を装うのが得意です。「手数料がもったいない」「あなたのために安くしたい」という言葉は、あなたを「保護のない場外」へ連れ出すための甘い誘い文句に過ぎません。
4.詐欺師が使う「場外取引」への誘導パターン
以下のような言動があったら、その瞬間に取引を中止してください。
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「専用出品にするので、支払いはPayPayでお願いします」
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フリマアプリ内で「専用」を作りつつ、決済だけを外で行わせようとします。
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「アプリの利用制限がかかっているので、直接送金してください」
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利用制限がかかっていること自体が、そのアカウントが不審である証拠です。
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「PayPayのマネーライト(譲渡可能残高)で送ってくれれば、すぐに発送します」
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「マネーライト」は現金化が制限されている場合がありますが、詐欺師はこれを別の買い物やマネーロンダリングに利用するため、喜んで受け取ります。
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「QRコードを送るので、それを読み取って金額を入力してください」
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送金だけでなく、店舗の支払い用QRコードを偽装して、他人の買い物の代金を支払わされるケースもあります。
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5.プラットフォームの「規約」はあなたを守る盾
メルカリやヤフオクなどの利用規約には、必ず「直接取引(場外取引)の禁止」が明記されています。これには2つの理由があります。
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運営の収益(手数料)を守るため
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利用者の安全(決済保護)を守るため
詐欺師は「運営に手数料を取られるのがバカバカしい」と同調を求めてきますが、その手数料は「万が一の時の保険料」だと考えてください。規約を破って場外取引をした場合、あなたも規約違反者となり、運営からのサポートや補償を一切受けられなくなるだけでなく、自分のアカウントが停止されるリスクもあります。
6.被害を未然に防ぐ「3つの鉄則」
コードレス決済アプリの送金機能を安全に使うための鉄則です。
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対面または信頼できる知人以外への送金はしない:
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ネット上の「顔の見えない相手」への送金手段として決済アプリを使ってはいけません。それは現金を生身のまま、見知らぬ通行人に手渡すのと同じ行為です。
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「PayPay送金」「LINE Pay送金」の言葉が出たら即ブロック:
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フリマアプリやSNSの売買で、この言葉が出た時点で、相手がどんなに良い人そうでも100%詐欺師だと断定して間違いありません。
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プラットフォームの決済システムを完遂する:
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商品が手元に届き、中身を確認するまでは、絶対に受取評価や完了手続きをしないでください。また、代金は必ずプラットフォーム内の支払い方法(クレジットカード、コンビニ払い、キャリア決済など)で完結させてください。
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おわりに
決済アプリの送金機能は、非常に便利で画期的なものです。しかし、その「手軽さ」は、詐欺師にとっても「お金を奪う手軽さ」に直結しています。
「自分だけは大丈夫」「この人は信頼できそう」という主観的な判断は、詐欺師の前では無力です。「システムが用意した保護の枠から一歩も出ない」。このルールを徹底することこそが、あなたの資産とスマホ決済の未来を守る唯一の方法です。