1. 【総論】キャッシュレス化の影で進化する「コードレス決済詐欺」の正体

1.財布を持たない時代の「見えない財布」が狙われている

財布から現金を取り出すことなく、スマートフォンの画面を提示したり、QRコードをスキャンしたりするだけで買い物が完結する。この「コードレス決済(キャッシュレス決済)」は、私たちの生活を劇的に便利にしました。しかし、この便利さの陰で、犯罪組織はかつての「振り込め詐欺」に代わる、より効率的で匿名性の高い「コードレス決済詐欺」へとシフトしています。

警察庁の統計によると、キャッシュレス決済に関わる不正利用や詐欺被害は年々増加傾向にあり、その手口は日々巧妙化しています。なぜ、今これほどまでにスマホ決済が狙われているのか。その正体と背景を探ります。


2.なぜ「コードレス決済」は詐欺師にとって都合が良いのか?

従来の銀行振込による詐欺と比べ、キャッシュレス決済アプリを悪用する手口には、詐欺師にとって有利な3つの特徴があります。

(1) 即時性と拡散性

銀行振込の場合、着金までに時間がかかったり、組戻しの手続きで組止めるチャンスがあったりします。しかし、決済アプリの「送金」や「支払い」は一瞬で完了します。一度送金された資金は、即座に別の複数のアカウントへ分散(マネーロンダリング)されるため、追跡が極めて困難です。

(2) 匿名性の高さ(アカウントの使い捨て)

多くの決済アプリでは、電話番号やメールアドレスがあれば比較的容易にアカウントを作成できます。詐欺師は「闇バイト」などを通じて入手した他人名義のアカウントを使い捨てにするため、実行犯の特定が難しくなっています。

(3) 心理的ハードルの低さ

スマホを数回タップするだけの操作は、銀行のATMへ行くよりも心理的な抵抗が少なく、「つい、うっかり」送金ボタンを押してしまう危険性を高めています。また、少額の被害を積み重ねる手法も多く、被害者が「勉強代だ」と諦めてしまい、表面化しにくい側面もあります。


3.多発する4つの主要手口:あなたのスマホは大丈夫か?

現在確認されているコードレス決済詐欺は、大きく分けて以下の4つのパターンに分類されます。

① 送金機能悪用型(フリマ・SNS誘導)

SNSやフリマアプリで「手数料を安くするからPayPayで直接払ってほしい」と持ちかけ、送金させた途端に音信不通になる手口です。これは「個人間送金」が原則として取り消しできない仕組みを逆手に取ったものです。

② フィッシング・アカウント乗っ取り型

「アカウントが不正利用された」「ポイントが失効する」といった偽のSMS(スミッシング)を送り、偽のログインサイトへ誘導。ID、パスワード、二段階認証コードを盗み取り、アカウントを丸ごと乗っ取って、連携している銀行口座からチャージ・残高を使い切ります。

③ バーコード・QRコード盗取型

レジ待ちをしている際や公共の場で、スマホに表示させた支払い用バーコードを背後から望遠カメラなどで盗み撮りし、その画像を使って別の場所で不正に買い物をする手口です。また、店舗のQRコードを偽のQRコードに張り替える「QRLjacking」も海外では問題となっています。

④ 偽・還付金 / キャンペーン受取型

「自治体からの給付金がある」「高額当選した」と偽り、受取手続きと称して、実は「送金」の設定をさせる、あるいは「アカウントの共有」をさせることで残高を奪う手口です。


4.【実例】「自分は詳しい」と思っていた20代男性の失敗

IT企業に勤め、キャッシュレス決済を使いこなしていた20代のHさんは、趣味の限定スニーカーをフリマサイトで探していました。

詐欺のプロセス:

  1. SNSでの接触: フリマサイトで「売り切れ」だった商品が、SNS(X)で「安く譲ります」と投稿されているのを発見。

  2. 直接取引の提案: 相手は「サイトを通すと手数料が高いから、決済アプリの個人間送金なら1万円安くする」と提案。

  3. 安心感の演出: 相手は偽の本人確認書類の画像を送ってきたり、丁寧な敬語で対応したりしたため、Hさんは「これなら大丈夫」と信頼してしまいました。

  4. 送金とブロック: Hさんがアプリで5万円を送金した直後、相手のアカウントは消え、連絡は一切取れなくなりました。

教訓: 「プラットフォーム外の直接取引」を持ちかけられた時点で、どんなに魅力的な条件でも100%詐欺だと判断すべきです。


5.今すぐチェック!詐欺から身を守る「3つの盾」

コードレス決済を安全に利用するために、今日から以下の設定と習慣を徹底してください。

  1. 二段階認証・生体認証を「必須」にする:

    • パスワードだけでなく、指紋認証や顔認証を必ず設定してください。また、SMSで届く認証コードは「鍵そのもの」です。たとえ誰に頼まれても、絶対に教えてはいけません。

  2. 利用限度額を「必要最低限」に下げる:

    • 多くのアプリでは、1日あたりや1ヶ月あたりの利用・チャージ限度額を設定できます。万が一乗っ取られた際の被害を最小限に抑えるため、普段使う分だけの低額に設定しておきましょう。

  3. 「通知機能」をONにする:

    • 支払い、チャージ、ログインがあった際に、リアルタイムでプッシュ通知やメールが届くように設定します。身に覚えのない通知が来た瞬間にアプリを止めれば、被害の拡大を防げます。

おわりに

コードレス決済詐欺は、もはや「高齢者が騙されるもの」ではありません。便利さを享受している現役世代こそ、その仕組みの隙を狙われています。

「自分のスマホは、現金が詰まった生身の財布と同じ、あるいはそれ以上に危険なものだ」という意識を持つことが、この新しい時代の防犯の基本となります。次回は、最も被害が多い「個人間送金機能を悪用した手口」について、さらに詳しく解説します。

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