1.二つの悪意が交差する「ハイブリッド詐欺」の脅威
これまで解説してきたコードレス決済詐欺は、決済アプリ単体でのトラブルが中心でした。しかし今、最も警戒すべきなのは、従来の「サポート詐欺(偽警告詐欺)」にキャッシュレス決済が組み込まれたハイブリッド型の手口です。
パソコンやスマホを操作中に突如現れる「ウイルスに感染しました」という警告画面。これに驚いた被害者が、画面上の電話番号に連絡すると、巧みな話術でキャッシュレス決済アプリを通じた「送金」や「コードの提示」を強要されます。なぜ詐欺師は今、銀行振込ではなく「決済アプリ」を選んでいるのでしょうか。その巧妙な舞台裏を暴きます。
2.サポート詐欺とコードレス決済が結びつくメカニズム
この詐欺は、ITリテラシーに不安を感じている層の「恐怖心」を最大限に利用します。
(1) 恐怖の演出(フェイク・アラート)
ブラウザでサイトを閲覧している最中に、大音量の警告音とともに「システムが破損しています」「ハッカーに監視されています」といった偽の警告が画面いっぱいに表示されます。ブラウザを閉じられなくする細工が施されていることも多く、被害者はパニックに陥ります。
(2) 偽の「マイクロソフト」や「Google」を名乗る
画面に表示された番号に電話をかけると、片言の日本語や、非常に丁寧な日本語を話す自称「サポート担当者」が出ます。彼らは遠隔操作ソフトをインストールさせ、あたかもウイルスを駆除しているようなパフォーマンスを見せます。
(3) 決済アプリによる「修理代・保証金」の請求
駆除が終わったと見せかけ、「修理代金」や「1年間のセキュリティ保証金」として数万円を請求します。ここで、「銀行振込は時間がかかる」「今すぐ決済しないとウイルスが再発する」と理由をつけ、PayPayなどの決済アプリでの支払いを指示します。
3.【実例】「画面の向こうの犯人」にスマホを操られたMさんの悲劇
自宅でパソコンを楽しんでいた60代のMさんの事例です。
詐欺のプロセス:
警告の発生: 画面に「Windowsセキュリティシステムが損傷しています」という警告と、050から始まる電話番号が表示されました。
電話相談: 焦ったMさんが電話すると、「マイクロソフトのサポートです。修理が必要です」と言われ、パソコンの遠隔操作を許可してしまいました。
アプリの起動指示: 「修理費に3万円かかります。クレジットカードは使えません。PayPayで支払ってください」と指示されました。Mさんはスマホの操作が苦手だと伝えると、犯人は「スマホの画面をパソコンのカメラに見せてください。私が教えます」と誘導。
コードの盗取: 犯人は、MさんのPayPayアプリに表示された「支払い用バーコード」や「送金用QRコード」をパソコンのカメラ越しにスキャン、あるいはコードの数字を読み取らせることで、Mさんの残高を瞬時に奪い去りました。
追い打ち: 「エラーが起きたので、もう一度別のコードを出してください」と繰り返し、合計15万円を詐取されました。
教訓: 「警告画面の電話番号」には絶対にかけない。そして、見知らぬ相手に「決済画面を見せる・教える」ことは、財布の中身を差し出すのと同じです。
4.なぜ詐欺師は決済アプリでの支払いを急がせるのか?
詐欺師が銀行振込を避け、決済アプリへ誘導するのには明確な理由があります。
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「マネーライト」の悪用: PayPayなどの残高には、出金できない「マネーライト(譲渡専用)」がありますが、詐欺師はこれを使って別の商品を購入したり、ギフト券に変えたりすることで、容易に「資金洗浄(マネーロンダリング)」が可能です。
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返金・組戻しの阻止: 銀行振込であれば、警察や銀行を通じて口座を凍結したり、振込を取り消したりできる可能性があります。しかし、決済アプリの「送金」は完了した瞬間に権利が移転し、運営会社でも取り消すことができません。
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被害者の「心理的パニック」の利用: 決済アプリはスマホ一つで完結するため、電話で指示を出しながら、被害者に考える隙を与えずに入金作業を完了させることができます。
5.サポート詐欺×決済アプリ 複合型の防衛策
もし画面に警告が出たら、以下のステップを思い出してください。
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「Ctrl + Alt + Del」でブラウザを強制終了する: 画面に何が出ていても、それは単なる「広告」や「嘘の画像」です。パソコンが壊れたわけではありません。ブラウザを閉じれば警告は消えます。
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電話番号を検索する: 画面に出た番号をスマホで検索してみてください。多くの場合、既に「詐欺番号」として情報が出ています。
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「決済アプリで払え」は100%詐欺: マイクロソフトやGoogle、Appleといった大手企業が、修理代金の支払いにPayPayなどの送金機能を指定することは、天地がひっくり返ってもありません。
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遠隔操作ソフトを入れない: 「AnyDesk」や「TeamViewer」といったソフトのインストールを求められたら、その時点で電話を切ってください。
6.もし送金してしまった、あるいは画面を見せてしまったら
被害に気づいたら、1分1秒を争います。
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決済アプリの利用停止: すぐにカスタマーセンターへ連絡し、アカウントを凍結します。
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遠隔操作ソフトのアンインストールと初期化: パソコンに入れられたソフトを削除し、できれば専門業者に依頼してOSを初期化してください。犯人がバックドア(裏口)を仕掛けている可能性があります。
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警察の「サイバー犯罪相談窓口」へ: 証拠として、警告画面の写真や、犯人とのやり取り、送金履歴を保存して相談してください。
おわりに
サポート詐欺は古い手口ですが、コードレス決済という「最新の武器」を手に入れたことで、その被害額とスピードは格段に上がっています。
「画面の警告は無視する」「修理代をアプリで送金しない」。
この二つを徹底するだけで、あなたのデジタルライフは守られます。次回は、より長期的な心理戦である「ロマンス・投資詐欺の決済口:なぜ詐欺師はアプリ送金を好むのか」について詳しく解説します。